大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和41年(う)511号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕論旨は要するに、原判決が、被告人らの五回にわたる本件鉄筋の各搬出行為を目して、管理者の占有を侵奪したものと認定したのは事実の誤認である旨主張し、本件鉄筋は、原判示藤木工務店の所有ないし管理していたものではない、右鉄筋はもともと原判示京都機械株式会社の新築工事の元請負人藤木工務店が、その鉄筋工事を内本工務店に下請させるに際し、いわゆる責任屯数略称責屯の約定で支給した材料の一部であり、内本工務店はさらに右鉄筋工事を右同様責屯の約定で千田組に、下請させたものであるが、右責屯の約定というのは、注文者と請負人の間で所要鉄筋材料が計算され、請負人は注文者より右材料の支給を受けて鉄筋工事を施行し、たとえ材料が不足しても、その追加請求はできず、かりに余つたとしても残材料は注文者に返還する必要がなく、残材料は、すべて工事施工者たる請負人の所有とするという約定をいうのであり、これは業界の慣行でもあつて、本件の前記責屯の約定においても右と同様で、これに対する例外的な合意ないし約定は存しなかつたものであり、被告人らの搬出した本件鉄筋は前記工事の残材料であるから、藤木工務店はこれに対して何らの権利も有しないことは明らかであるとし、さらに、かりに本件鉄筋の管理者が原判示の藤木工務店であるとしても、被告人には犯意がない。すなわち、被告人は、前記千田組の河場勇から本件現場の責任を任されていたものであるが、責屯の約定により少なくとも残材料の二分の一を持ち出し処分することが許されているものと信じて、残材料一二屯のうち半分以内を搬出したものであるから被告人には窃盗の犯意がなかつたものであるというのである。

よつて所論にかんがみ記録を精査し、原審において取り調べたすべての証拠に、当審における事実取調の結果を参酌して考察すると、所論のとおり本件鉄筋は、京都機械株式会社の新築工事を請負つた原判示藤木工務店が、その鉄筋工事を内本工務店に下請させるに際し、いわゆる責屯の約定で支給した材料の一部であり、内本工務店はさらにその工事を責屯の約定で河場勇(所論の千田組は本件の請負に関係がない)に下請させたものであることが認められるが、原審証人貝沼正(第二回)原審並びに当審証人内本仙の各供述によれば、右藤木工務店と内本工務店との間のいわゆる責屯契約の内容は「工事材料の鉄筋は双方で見積りの上注文主の藤木工務店がこれを支給し、工事完了後双方立会いの上で検査をし、もし鉄筋が余れば、これを請負人である内本工務店の所有とし、同工務店の希望によつては、藤木工務店においてこれを買い上げて、その価額を支給するが、ただ、残鉄筋の支給鉄筋に対する割合が四%を越えるときは、その分については両者で折半する。もし鉄筋の足りないときは内本工務店においてこれを補充して工事を完成させる。」というものであり、内本工務店と河場勇との間の約定は、当初は右責屯契約による内本工務店の取得分が生ずれば、これを両者で折半するというものであつたが、後に河場から設計変更などの手持による損害補てんの懇請があり、工事完了の際話合によりその全部を河場の取得としてうめ合わせをすることにしたのであつて、そのいずれにしても右残鉄筋については、藤木、内本両工務店立会いの上で確認することとされていた事実が認められ、また原審証人角憲一及び当審証人内本仙の各供述並びに被告人の当審における供述によれば、右内本工務店の経営者である内本仙は、右河場との下請契約後も、月に二、三回は現場を見にきており、さらに工事終了後、被告人や、角憲一立会いの下に、残材料の確認をしている事実が認められるのであつて、以上の各事実を綜合すれば、内本工務店が藤木工務店から支給を受けた鉄筋は、工事完了後両者立会いの上で残存数量の確認がなされるまでは、内本工務店と河場との前記契約後においても、依然として藤木工務店の所有であり、内本工務店がこれを管理していたものということができる。そして記録に徴すれば、被告人らが本件鉄筋を搬出した昭和三九年一〇月中旬ないし同年一一月二二日ごろは、未だ鉄筋工事は完了しておらず(被告人の当審供述によつても、鉄筋の組立が終つたのは一一月二五日である)少なくとも、前記立会いの上での残存数量の確認はなされていなかつた事実が認められるのであつて、本件搬出当時本件各鉄筋は、依然として内本工務店の経営者内本仙の管理下にあつたものというべきである。この点に関し、被告人のほか原審証人角憲一、長谷川廉、当審証人千田正見らは、残材料の数量は、設計に従つて所要鉄筋を切断加工したときに判明し、それ以後はこれを自由に処分できるかのごとく供述するけれども、鉄筋工事の性質上少なくとも、鉄骨を組立て、コンクリートを流し込む段階に至るまでは、手直しその他の変更ということも十分考えられるのであるから、残存数量の見込は立つても、これを確定することのできないことは自明の理であり、ことに本件では残鉄筋の支給鉄筋に対する割合についてもこれを確認する必要のあること前記のとおりであるのみならず、原審証人坂庄次郎、同森島光男の各供述によれば、同証人らの属する各会社においても、鉄骨の組立が完了したときに検査をし、コンクリート注入後責屯契約による清算をしていることが認められるのであつて、この点に関する前記被告人らの各供述は信用できない。そして被告人の犯意の点については、原審並びに当審証人河場勇は、被告人に対し、被告人に工事を任して和歌山へ行く際に「鉄筋が残つたらやる」と言つた旨供述しているが、その一面、河場証人は、右委託の際、被告人らに対し、鉄筋を持ち出すときは、内本の了解を得るよう併せて注意した旨供述しており、かつ、被告人は本件搬出後内本から鉄筋紛失のことを尋ねられながら「知らない」と答えていること(当審内本仙証言)右各搬出の際も、原判示第一については、材料置場から一旦守衛のいない側の門の近くに運び(内田明広の原審証言)わざわざ昼間を避けていること(姜堅雄の司法警察職員に対する昭和三九年一一月七二日付供述調書)同第二の(一)ないし(三)についても事前に、作業中それとなく北の横門まで運び、ことに右、(一)、(二)の分については、同所付近の溝の中に隠していること(被告人の司法警察職員に対する昭和三九年一二月三日付供述調書)第二の各搬出分については、長谷川廉と二人だけで行い、売得金も二人で分けて飲食、避興費に使用していること(同調書)などを綜合すると、被告人も、本件鉄筋についての権利が将来においてはともかく、搬出当時には未だ河場に移転していない事実を認識していたものと認めるのが相当であつて、被告人に窃盗の犯意を認めるに十分である。よつて被告人は、内本仙の管理する本件各鉄筋を窃盗したものというべく、窃盗の罪責は免れないのであつて、原判決には所論のような事実の誤認はない(但し原判決は前記のとおり、本件鉄筋の管理者を犬伏武芳としており、この点においては、事実の誤認があるといえるが、この程度の誤りは判決に影響を及ぼさない)論旨はいずれも理由がない。(山崎薫 浅野芳朗 大政正一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!